ブレンダン·ロジャース 名将の軌跡
今回は今年の2月でレスターの監督に就任して丸3年が経つブレンダン・ロジャース監督について、これまでの経歴や使用していた戦術、若手の育成などの面から掘り下げていこうと思います。
情報
ブレンダン・ロジャース(Brendan Rodgers)
北アイルランド出身 48歳(1976年1月26日生まれ)
選手時代
ユースに所属していた北アイルランド1部のバリーメナ·ユナイテッドで選手としてのキャリアをスタートさせました。3年後に18歳でレディングと契約しリザーブチームでプレーしましたが、遺伝からくる膝関節の故障により20歳という若さで選手生活を終えました。その後ノンリーグのニューポート、ウィットニータウン、ニューバリータウンの3クラブに所属し、レディングにはユースコーチとして留まりましたが、若い家族を養うためにイギリスの百貨店であるジョンルイスに就職しました。BBCのインタビューでは朝5時に起きて12時間シフトを週5日行い、その後コーチングに行っていたと語っています。
コーチ時代
多くの時間をスペインで過ごし様々な指導方法を学びました。その後はモウリーニョ監督のアシスタントのスティーブ·クラークに推薦され、2004年にレディングのユース監督を辞めチェルシーユースのヘッドコーチに就任。2年後にはリザーブチームの監督に昇格しました。
監督(レスター以前)
2008年 チェルシーを去り当時チャンピオンシップに所属していたワトフォードの監督に就任しました。最初のリーグ10試合で2勝しかできず一時は降格圏まで落ちましたが、見事立て直し最終的には13位でリーグ戦を終えました。
ワトフォードで降格を免れた数週間後にレディングの監督の席が空き、次期監督として有力視されるようになりました。当初は「ワトフォードに集中している」と報道を否定したものの、最終的にはワトフォードと100万ポンドに上る契約解除金で合意し2009年6月5日にレディングの監督に就任しました。スタートは好調だったもののその後失速し、就任から半年後の12月に降格圏スレスレで双方合意のもと退団しました。
マンチェスターシティの監督を務めていたロベルト·マンチーニからコーチングスタッフとして彼の下で働く誘いを受けていたものの、2010年7月当時チャンピオンシップ所属だったスウォンジーの監督に就任しました。スウォンジーの監督としてのスタートはとても好調で6試合で5勝、4試合はクリーンシートであったことから2011年2月のチャンピオンシップ月間最優秀監督に選ばれました。最終的にはプレーオフ決勝で古巣レディングを破りクラブ初のプレミアリーグ昇格を果たしました。翌年もそのままスウォンジーを率い2012年1月にはプレミアリーグ月間最優秀監督賞を受賞しました。最終的には11位でプレミアリーグ初年度を終えました。
スウォンジーでの結果が高く評価され2012年6月に39歳という若さで名門リバプールの監督に就任しました。12-13シーズンは7位で前年度より順位を一つ上げました。13-14シーズンは2013年8月と2014年3月に月間最優秀監督賞を同シーズンで2度獲得しました。リバプールは11連勝し、3試合を残した状況で5ポイント差と首位に迫っていましたが、最終的にはマンチェスターシティに2ポイント及ばず準優勝で終えました。リバプールはこのシーズン1895-96シーズン以来のクラブ最多101得点を記録しました。14-15シーズンはリーグ6位で終えました。この結果ロジャースは1950年代以来リバプールを3シーズン率いてタイトルを得ることができなかった初の監督となってしまいました。15-16シーズンは8試合を終え10位と結果が振るわず解任されました。
2016年5月20日セルティックの監督に就任しました。11月27日スコットランドリーグカップで優勝し監督として初めてタイトルを獲得しました。このトロフィーはセルティックにとって100個目のメジャータイトルでした。リーグ戦ではレンジャースとの3試合を全勝した初の監督となり、8試合を残してリーグ6連覇を達成しました。2位に30点差をつける勝ち点106で1899年以来スコットランドリーグで初めて無敗でリーグ戦を終えたチームとなりました。史上4度目となる3冠を達成し16-17シーズンに行われた国内のコンペティション全試合を無敗で終えました。17-18シーズンには国内の無敗記録を69試合まで伸ばしました。対レンジャース戦での無敗記録を12に伸ばし、2シーズン連続でトレブルを達成した最初の監督となりました。
監督(レスター)
2019年2月クロード·ピュエル監督の後任としてレスターシティの監督に就任しました。途中就任の18-19シーズンはリーグ戦を9位で終えました。就任2年目の19-20シーズンは15試合を終えた時点で2位と開幕から好調をキープしたものの、終盤に失速し5位と惜しくもチャンピオンズリーグ出場とはなりませんでした。20-21シーズンも開幕から好調で9月27日のマンチェスターシティ戦では5得点を記録します。これはペップ·グアルディオラが率いるチームに対して5得点をした最初の監督ということを意味します。ヨーロッパリーグではグループステージは突破したもののスラヴィア·プラハに敗れベスト32を記録しています。2021年5月15日には決勝でチェルシーを破りクラブ初のFA杯優勝を達成しました。リーグ戦ではプレミアのチームの中で最も長い期間4位以内にとどまっていたものの前年に続き大失速、最終節の敗戦により5位に落ち2年連続でチャンピオンズリーグ出場権を目の前で逃すこととなりました。
そして21-22シーズンはBIG6に割って入りチャンピオンズリーグ出場権争いに参加することを期待されていましたが、PSMでのフォファナの負傷やエバンスの度重なる故障により守備のもろさが露呈しリーグ戦では前半戦を終え勝ち点25で10位、ヨーロッパリーグはGS敗退と期待とはかけ離れた結果となっています。しかし12月終盤からは多数の離脱者を出しながらもシティ相手に3得点やリバプール相手にクリーンシートなど結果を残し始めているので、これからのリーグ後半戦でチームをどのように立て直すのかに期待したいです。
戦術
スウォンジー時代にはGKを含む最終ラインからショートパスでつなぐことにこだわり、エリアの幅まで広がったCBと降りてきたボランチとでボールを落ち着けSBから一気に両ウイングまで縦パスを通しそこから仕掛けるというショートパス主体のポゼッションサッカーを展開しました。
リバプール時代にはスウォンジー時代から得意としていたポゼッションだけでなく縦に早いカウンターも併用しました。初年度は自身の哲学をチームに植え付けるため4-3-3や4-2-3-1でのポゼッションサッカーを展開していましたが、13-14シーズンでは途中から3-4-1-2や中盤がひし形の4-4-2に変更しスアレスとスタリッジなどの強力な個を武器にカウンターサッカーも取り入れました。その結果リーグ戦38試合で101得点と驚異の攻撃力を見せつけましたが、失点も50点と中位チームのような失点数で明確な課題も残りました。その他にも体力面で衰えの見えたジェラードをアンカーに転向させ中盤の底に置き選手生命を延ばしました。しかし結果を残した13-14シーズン以降はスアレスが抜けたことによる得点力不足に苦しみ、ベンテケにシンプルなロングボールを放り込んだり、バロテッリやランバートを補強するなど試行錯誤を繰り返しましたがスアレスの穴を埋めることはできず得点は半減。それに加えて失点数は変わらず50点付近と攻守ともに課題を抱えリバプールを去ることとなりました。
セルティックでも様々なフォーメーションを使用したり、選手を試験的に起用しました。現在ブレントフォードでDFをしているクリストファー·アイエルは当初MFとしてプレーしていましたが、セルティック時代にロジャースがCBにコンバートしました。レンジャーズ戦では4バックで試合に入りましたがボールを保持している際には3バックに変化しSBのティアニーをウイングのように使うことで効果的にゲームを進めました。CBと中盤の2人でボックスを形成しSBが自由に高い位置をとります。これにより攻撃に6人で攻撃を組み立てることができます。
レスターでの基本形は4-2-3-1や4-1-4-1ですが相手のフォーメーションや離脱者の状況により5バックや3バックも使用します。守備時相手に押し込まれている際には4-5のブロックを引きゴールを守ります。ボール非保持時はFWがパスコースを限定し中盤からプレスを仕掛けます。相手が低い位置から繋いでくる際にはFWやMFが連動して前からハメてボールを奪いショートカウンターを仕掛けます。
ビルドアップ時は左右で探りながらアンカー(エンディディ)を経由し前方に展開します。対策されてアンカーが塞がれたときはティーレマンスやマディソンなどのMFが降りてきてそこに幅をとったCBから縦パスを通して繋ぎます。
4-2-3-1時の左サイドからの崩しではSB(トーマス)MF(マディソンやデューズバリーホール)WG(バーンズやルックマン)が細かいパス交換で入れ替わりつつ、互いのランニングコースを作り相手ゴールに迫ります。
細かくパスを繋いで崩す他にもレスターの代名詞であるロングフィードから素早い攻撃を仕掛けるカウンターの鋭さも健在です。
最近はヴァーディとイヘアナチョ、ダカの内の2人を組み合わせて2TOPで起用する4-3-1-2の形を使用することも増えています。リバプール時代に2TOPを使用し始めたのはスアレスとスタリッジという強力な2人のFWの共存が目的でしたので、ヴァーディだけでなくイヘアナチョやダカも強力なFWとして実力を認められたということでしょうか。
育成·トレーニング
ロジャースは若手の起用にも積極的で現在レスターではトーマス(20歳)スマレ(22歳)デューズバリーホール(23歳)などの若い新加入選手(ユース上がりも含む)を多用しています。ロジャースは練習の際に20人のトレーニンググループを用いています。この「20人」とは全員が心理的にレギュラーを意識できるようにするための人数であり、ただトップチームで練習をしているだけでなく主力としての責任感や自覚を芽生えさせるためのものです。これが若手の急速な成長に繋がっているのでしょう。
リバプール時代には「ユースから引き上げても1軍で使わないなら意味がない」と語っており、フラナガンを本職とは逆の左SBとしてマージサイドダービーでいきなりスタメンに抜擢しました。ロジャースは若手の起用に積極的なだけでなく若手の起用を任務と考えているようです。
https://www.footballista.jp/magazine/17617
footballista 2014年9月号参照
また、リバプール時代からの腹心であるコロ·トゥーレがディフェンスの指導にあたり、ビデオセッションなどでCB各々にマンツーマンで指導しています。ロジャース政権の最大の課題である守備面をコロ・トゥーレをはじめとするアシスタント陣が補っているため、19-20シーズンはリーグで6番目に少ない41失点と守備面の改善が見られました。しかし昨シーズンは50失点でリーグ10番目、今シーズンは18試合消化時点33失点でリーグワースト5位と再び課題が浮き彫りとなってきました。各選手(ソユンチュやヴェスターゴーアなど)の問題点の改善やセットプレー対策の構築など失点数削減のために今一度奮起して欲しいところです。
まとめ
レスター以前の経歴を振り返えるとロジャースを監督として招聘したレスターフロント陣の優秀さを再確認させられます。彼は自分のサッカーを持ちつつも対戦相手によって対応を変え、これまで在籍したどこのチームでも一定以上の成績を残してきました。若手の育成にも定評があり、ポジションや役割の変更でヴァーディやジェラードなどのベテランの選手生命を延ばすことにも一役買いました。また退団することとなった選手と今でも連絡を取り続けるなど選手との関係も良好です。
しかしこれまでどのチームでも3年を超える長期政権を築くことは出来ておらず、2022年2月でレスターに就任して丸3年を迎える今現在が正念場です。現在リーグ戦は10位、ELはグループステージ敗退と求められていた結果は残せていませんが、個人的にはロジャースならここから巻き返すことができると信じているため自身初の長期政権を築くためにもリーグ後半戦で巻き返しを見せて欲しいです。
お知らせ
リーグ前半戦での各選手の振り返りはこちらで行っているのでまだ読んでいない方はぜひご覧ください。